
最低賃金の歴史と今後について

最低賃金制度は、労働者の生活を守るための重要な政策手段として世界各国で導入・発展してきました。
その起源は19世紀末までさかのぼり、現在ではほとんどの国が何らかの形で最低賃金制度を設けています。
今回は、最低賃金成立の歴史的背景と世界各国の動向、今後の展望についてご紹介いたします。
最低賃金制度の世界的な歴史的背景
最低賃金制度の起源は19世紀末にさかのぼります。産業革命以降、労働条件の悪化や児童・女性労働などの問題が深刻化したなかで、労働運動や社会改革運動の中から生まれてきました。
世界で最初に最低賃金法を制定したのは、ニュージーランドで、1894年に「産業調停仲裁法(Industrial Conciliation and Arbitration Act)」を成立させました。これにより、労働者の最低限の賃金を保障する枠組みが初めて法的に整備されました。
続いてオーストラリアのビクトリア州をはじめとする州でも最低賃金制度が導入され、賃金保護の動きはオセアニア全域に広がっていきます。
ヨーロッパではイギリスが1909年に「賃金局法(Trade Boards Act)」を成立させ、労働者保護のための法制度が拡大していきました。
国際的には、1928年に国際労働機構(ILO)が「最低賃金設定機構条約(Minimum Wage-Fixing Machinery Convention)」を採択し、加盟国に対して最低賃金制度の整備を促しました。その後、1970年には「最低賃金固定条約(Minimum Wage Fixing Convention)」が採択され、最低賃金の設定や改定に労使双方の協議が必要であることが明文化されました。
アメリカ合衆国では1938年に連邦レベルでの最低賃金制度が確率されました。
第二次大戦後、社会保障制度の拡充や福祉国家モデルを採用する国が増加し、最低賃金制度もその一環として導入・強化されていきます。多くの発展途上国でも独立後の国づくり・貿易等の過程で最低賃金法やその類似制度が制定されるようになりました。
日本では、1959年の「最低賃金法」の成立・施行が一つの重要な段階的目標となり、各都道府県ごと・産業ごとで最低賃金が定められ、時間毎賃金としての地域別最低賃金制度が確立されてきました。
このように最低賃金は、労働者保護と経済政策の両面から重要な役割を担う制度として、20世紀を通じて世界中で定着していったのです。
世界各国における最近の最低賃金制度の動き
近年、最低賃金の引き上げは世界的な潮流となっています。
経済協力開発機構(OECD)の調査によると、2021年1月から2025年4月にかけて、OECD加盟国の30か国の法定最低賃金の実質水準は平均で7.9%上昇しました。ただし、アメリカや韓国、スロバキア、スロベニアなどの一部の国では、同期間に実質最低賃金が減少しています。
欧州連合(EU)の加盟国でも最低賃金の引き上げが進んでおり、2024年1月から2025年1月にかけて最低賃金制度を持つ22カ国のうち21カ国で名目最低賃金が上昇しました。特に中央・東欧諸国を中心に大幅な引き上げが目立っています。
G20諸国でも同様の傾向が見られ、アルゼンチンでは2024年から2025年にかけて最低賃金が約51%増加しました。インフレ率の高い国々では実質賃金の確保が課題となる一方で、生活費上昇に対するための大幅な引き上げが行われています。
日本では、2025年度の全国最低賃金は過去最高の引き上げ幅となり、全国加重平均額は1,121円。これは前年度比66円、およそ6.3%の増となりました。生活費の負担軽減が政策の大きな動機となっています。
これらの動きは、生活費の高騰や格差拡大の対応として各国が最低賃金制度を強化していることを示しています。
最低賃金制度の今後の展望
今後の最低賃金制度の方向性としては、下記のような点が注目されています。
まず、経済協力開発機構(OECD)諸国ではインフレ率や生活費の高騰に応じて名目最低賃金を自動的または定期的に調整する仕組みが強化されています。これにより、実質賃金の維持や労働者の購買力確保が狙いとされています。
欧州連合(EU)では、「最低賃金司令(Minimum Wage Directive)」が導入され、加盟国に対し最低賃金設定の透明性や予測可能性を高めるよう求めています。特に中央・東欧諸国では賃金格差の是正や生活水準向上を目的に、今後も積極的な引き上げが見込まれています。
また、ドイツのように複数年にわたり段階的な引き上げ計画を策定する国も増えており、最低賃金制度がより長期的な経済戦略の一環として位置づけられつつあります。
参考:主要国における最低賃金制度の特徴と課題-内閣府ホームページ-
まとめ
いかがでしたか?
世界各国で名目最低賃金を引き上げる動きが広がっていますが、その恩恵がすべての国やすべての労働者に均等に行き渡っているわけではありません。制度の実効性や生活費との乖離といった課題は依然として根強く残っています。
また、多くの国では最低賃金だけでは、生活費・住居・医療・教育費などの支出を賄えないケースも少なくありません。そのため税制改革や家族手当といった社会保障の充実、住宅支援や交通費補助などの補完的な政策も欠かせないといえるでしょう。
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